放射線療法


 早期前立腺癌に対する放射線療法の成績は、前立腺全摘除術と比較しやや劣るというのが泌尿器科医の一般的な認識と思われますが、最近の報告を見る限りではほぼ同等であるという結果であります。また近年の放射線療法の進歩には目覚しいものがあり、放射線療法の効果をあげるための様々な工夫がなされ、高リスク症例においては、前立腺全摘除術と同等あるいはそれ以上の治療成績が得られています。


外照射

1) 放射線の種類
 最もよく用いられる光子線(X線、ガンマ線)から、最近では陽子線、炭素線による重粒子線照射も行われるようになりつつあります。光子線の線量分布は体表面で高く、深部になると減衰するのに対して、重粒子線の線量分布はブラッグピークと呼ばれる物理的な特徴があり、加速エネルギーに応じて体内のある一定の深さでエネルギーの放出が最大になります。この性質を利用し病巣により高線量を集中させ、治療効果を高めます。しかしながら陽子線の生物学的効果はX線と殆ど変わりません(低LET放射線)。炭素線は高LET放射線であり、組織内酸素濃度や細胞周期の影響を受けにくく、放射線抵抗性腫瘍にも効果があるといわれています。


2) 照射法の改善
 重粒子線は施設の建造に巨大な投資が必要であり、普及の点から考えると強度変調放射線療法(IMRT)と呼ばれるハイテク高精度照射が最も注目されます。IMRTは照射野内の放射線強度を不均一になるよう制御することにより、健常臓器をくりぬくような線量分布を作成することが可能であります。さらに臓器の動きをモニターしながら照射することも可能になり、IMRTと組み合わせ、光子線でも高線量を照射することにより副作用を抑えつつ、効果をあげる事ができるようになってきました。

小線源治療

1)小線源療法の適応   
 前立腺癌が前立腺被膜をこえて浸潤していない患者さんが適応となります。ただし、癌の悪性度が高い場合や、PSAが高値の場合、前立腺体積が大きい方、排尿困難の強い方、経尿道的前立腺切除術を過去に施行された患者さんでは、適応外となります。

 

2)どのような治療法か   
 密封小線源と呼ばれるチタンカプセルに入った低線量の放射性物質を永久に前立腺組織内に留置します。治療に使われる小線源(シード)は0.8×4.5ミリのチタン製の金属カプセル内にI(ヨード-125)という放射性物質が封入されており、半減期は約60日と比較的長いものの、そのエネルギーは大変小さく体外への影響も極めて小さいなどの特徴を持っています。一般的に必要とされる線源数は80個程度です。総線量は140~150Gyと高線量ですが、外部照射の70~80Gyに相当し、これらの線量が半年程かけてゆっくり前立腺に直接照射されることになります。
 事前に前立腺を計測して、小線源(シード)を何個、どの位置に埋め込むかといった治療計画を立てます。小線源(シード)は日本で作られていないため、米国に注文をします。そのため実際の挿入は治療計画後2-3週になります。
小線源(シード)の挿入は、下半身麻酔を行った後、超音波機器を肛門内に挿入し、陰嚢と肛門の間(会陰部)から針を前立腺まで刺入し、コンピュータを用いて計画した適切な位置に線源を留置していきます。 治療時間は1~3時間程で、その後はベッド上安静が必要です。通常治療後数日内に退院ができます。

 

3)合併症と治療成績
急性期合併症は、前立腺内に針を刺入することに伴う前立腺の一時的な腫大(1.5‐2倍)によるものが多く、排尿困難を中心とした症状が出現します。頻便や排便痛などの直腸の合併症が生じることもあります。晩期の合併症としては勃起障害や血便などの直腸障害があります。いずれも手術や外部照射より頻度は低いと言われています。
治療成績は、手術とほぼ同じと言われています。