転移性・再燃前立腺がん


  前立腺癌は男性ホルモン依存性の増殖を示し、男性ホルモンの除去により、制癌されます。このことを利用し、転移前立腺癌に対してはホルモン療法が行われます。しかしながらその制癌効果は長期間持続されず、2年以内に約半数が、5年以内に約70%が男性ホルモンの除去にもかかわらず、再増殖し始めます。この現象を再燃といい、これら再燃癌に対する決定的に有効な治療法はありません。前立腺癌ホルモン療法の歴史は50年を越え、種々の薬剤が開発されていますが、転移前立腺癌の治療成績の向上は認められず、そこから派生する再燃癌の治療には進歩が見られないのが現状であります。

 

ホルモン療法
 前立腺癌の診断後直ちに治療を開始する即時療法と症状出現後治療を開始する遅延療法および間歇的にホルモン療法を行う方法がありますが、日本では即時療法が選択されることが多いです。
非転移癌に対するホルモン療法は予後延長に寄与しますが、転移癌においては、治療時期が予後に影響を与えるという証拠はなく、性機能温存や抗男性ホルモン療法の副作用回避、あるいはコストのことを考慮すれば、今後遅延療法、間歇的ホルモン療法は転移癌に対する重要な選択肢となります。

 

転移癌の経過と治療成績
 ホルモン療法により当初のうちは症状が軽快し、上昇していた前立腺特異抗原(PSA)は急速に低下します。一般にPSAが著明に低下した症例では長期間再燃せず経過する傾向にあります。再燃の最初のイベントは低下したPSAの上昇であります。PSAの上昇後平均約6ヵ月後に症状が出現し、症状出現後1-2年で残念ながら癌死される方が多いです。

 

再燃癌の治療方針
  再燃癌に対する治療は従来抗がん剤が殆ど効果なく、予後延長に寄与する治療法はありませんでした。最近、ドセタキセルという抗がん剤がわずかながら予後延長に寄与する(約2ヶ月)ことが分かり、本薬剤が使われることが多くなりました。しかし治癒することはなく、症状を抑える緩和療法が中心となります。

 

疼痛対策
 多くの場合骨転移による疼痛が生じる。まず非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)で対応し、除痛困難な時、疼痛個所が限局している場合は放射線照射(20-30Gy)を行い、限局していない場合はモルヒネ製剤を使用する。しかしながらモルヒネ製剤のみでは完全な除痛を得られない場合もあり、消炎作用のあるNSAIDsやステロイドの併用あるいは3環系抗うつ剤を併用する場合もあります。

 

脊髄圧迫に対する治療
 脊椎骨転移により脊髄が圧迫され下肢麻痺を生じる事は決してまれなことではありません。圧迫部位は胸椎が一番多く、通常下肢の脱力感、放散痛の後、歩行障害、完全対麻痺が生じます。治療はステロイド等の薬剤による除圧とともに、椎弓切除術や放射線照射が行われます。治療のポイントは症状が軽微な状態で診断し、早期に治療を行うことであります。

 

尿路症状に対する治療
  原発巣の増大に伴う排尿困難増強、前立腺出血および尿管閉塞による腎後性腎不全が問題となります。これらに対しては放射線照射(45-50Gy)を行うことによりコントロールします。